2006年03月09日

**げに恐ろしきは女。汝の名は恵美子〈 ゴジラ 〉**

 鉄は熱いうちに打て!BLOGは思いついたときに書け!という諺通り、昨日思いついたままに今日も連投。

 今日も〈 ゴジラ 〉な訳だが、皆が口を揃えて傑作と呼ぶ本作、冷静に見て行くと以外にゴジラが画面に写っている時間は短い。 〈逆襲 〉以降は、怪獣映画に相応しく主役たるゴジラの出番が多いが、こちらはどちらかと言えば、 巨大生物襲来の脅威に対処する人々の描写も少々あるが、メインは市井に生きる人々である。

 

 その本多猪四郎本編監督の側の主役は三人いる。山根博士の娘恵美子(河内桃子)と南海サルベージ勤務の尾形(宝田明)、 そして恵美子の許婚にしてオキシジェン・デストロイヤー開発者芹沢博士(平田昭彦)だ。えっ、山根博士 (志村喬)?彼は、確かに主役級っぽいし、ラストのオイシイ台詞を持っていったりしているが、 200万年前のジュラ紀などというトンデモ学説を唱えたり、ゴジラを殺すなと駄々捏ねてみたりと本筋とは別の世界にいるようで、言うなればナレーターに毛が生えた程度。

 世間的いえば、実直な若い男女に説得されて、一度は拒否したオキシジェン・デストロイヤーの使用を人々のために実行する。 その上その兵器を抹殺するために自らも殉じるという尊い精神のお話のように考えられがちだ。が、物語の頭の部分、「南海サルベージ」 事務所の場面を思い出してみよう。尾形と恵美子はこれから演奏会を聞きに出かけようとしたところだった。 芹沢の許婚の恵美子と尾形が、今風に言えば一緒にコンサートに出かけるということなのだ。 これはデートじゃん!戦後とはいえ、戦前の教育を受けて育った青年にしては、えらくオープンなこと。自由恋愛って奴ですか? 親が決めたこととはいえ一応は許婚、世間の目もあるだろうに。既にこの時点で、 三角関係の愛情のもつれは必至。もうドロドロだあー。

 しかも、芹沢が恵美子にオキシジェン・デストロイヤーの威力を見せる場面は、 ちょうど子供が好きな子の気を引こうとして秘密を打ち明けることと一緒である。「絶対に誰にも喋らないで」と恵美子に約束させる部分も、 秘密の共有という特殊な感情が働いてるとも思える。やっぱり芹沢は恵美子が好きなのだ。それ以前、 特に芹沢が怪我を負う前の戦前の様子が描かれていないので想像だが、その頃は許婚ということを意識しながらも、 ごく普通の少年少女の付き合いだったと思われる。双方ともその時代にしては教養レベルも高そうだし、 爽やかな関係を維持していたのではないだろうか?

 だがそんな生活は戦争で一変する。芹沢は昨日述べた通り、戦中に右顔面にひどい障害を負ったらしい。 撮影された頃の技術面からしてもあまり激しいメイクアップは施されていないが、 想像するに右前頭部から右目を越えて頬骨にかけての激しい火傷であろう。彼は隻眼で火傷の痕も痛々しい風貌に変わった。 容貌の変化は精神面にも大きく影響を与える。いきおい外出が億劫になり、研究も佳境を迎えていたため一層研究室に篭りがちというのが、 この映画で描かれる芹沢像だ。一方尾形は、職業はガテン系でありどちらかといえば体が反応するタイプ、幼稚なほど真直ぐな性格である。 外向型の特質が見える。学究肌で内向型の芹沢と外向型の尾形、その正反対の2人の間にいるのが恵美子だ。

 学者を父に持つ恵美子は、当時としては高いレベルで知的生活を送っていたのだろう。頭脳も優秀であったことは、 父山根博士の助手としてフィールドワークに同行することからも明白である。同様にフィールドワークに出かけることを苦にしないことから、人並みの社交性はあるように思う。そこら辺が彼女が尾形に惹かれていった理由だろう。内に篭る芹沢は鬱陶しく見えたのかもしれない。ただしお嬢様として育った恵美子は純真無垢であるがゆえ、 時として残酷な振る舞いをみせる。子供がときおり残酷な面を嬉々として見せるように。

 芹沢は恵美子にオキシジェン・デストロイヤーの威力を見せた際、「この状態では危険な武器になりうるから公表できない。 命を懸けて秘密は守りぬく」と言っている。これは、「オキシジェン・デストロイヤーを使用するときは、自らも死ぬ覚悟だ」 と宣言していることと同じである。賢明な恵美子にはその意図するところはもちろん理解しており、しばらくの間は秘密を守る。が、 ゴジラによる惨状を目にするに、事もあろうに尾形に打ち明けてしまう。真直ぐな2人は、「ゴジラを倒すためには強力な兵器の使用も正義」 とばかりに、2人結託して芹沢に詰め寄る。芹沢の”オキシジェン・デストロイヤーを兵器にしたくない”という気持ちと”恵美子に対する好意” の気持ちなど全く意に介さない。尾形ら2人には、人の気持ちなど汲み取るだけの余裕はないのだ。なぜなら2人だけで完結した世界では、 2人の意思がすべて。要は子供なのだから。そりゃ、多少は大人の感性を持つ芹沢は、頭を掻き毟ることだろう。

 意を決して芹沢は、オキシジェン・デストロイヤー関連の資料・データの類を燃やし始める。この瞬間、恵美子は直感したはずだ。 芹沢が自決する気であることを。それに気づいての号泣であろう。しかし恵美子はその事実については、誰にも明かさない。例え尾形であっても。

 いよいよ、ゴジラ討伐作戦。船上で自ら潜水服を着ようとする芹沢を見て、恵美子は何も思わなかったのだろうか?額面通り 「操作を誤らないためだ」と、自分を偽っていたのだろうか?それとも・・・。

 海底で対象を確認し、尾形を船に上げる芹沢。この時点で決定的だろう。恵美子には、この後起きる出来事は想像できたはずである。 芹沢と恵美子しか予知できない結果を。オキシジェン・デストロイヤーを作動させて作戦の成功を確認した芹沢は、船上と最後の交信を行なう。 交信に答えたのは尾形。芹沢が最後に話したかったのは尾形ではないはずだ。芹沢の精一杯の強がりが「幸せに」の一言である。

 恵美子は、すべて予期できたはずなのに沈黙を守った。作戦決行までには時間もあっただろうが、 芹沢に自決を止めさせるよう説得した様子もない。あまつさえ最後の通信の時、芹沢と言葉を交わすことさえない。 芹沢の一番聞きたかった言葉、恵美子からの「死なないで」という懇願の言葉は遂に芹沢にかけられなかった。最後の最後に「死なないで」 の言葉を聞ければ、芹沢も思い直すことはないにせよ満足して逝けたのではないかと思う。

 そして先に述べた山根博士の言葉である。「あのジュラ紀の生き物が一匹だけとは思えない」発言である。聞きようによっては、「芹沢は無駄死にだ」と言わんばかりである。また当初よりあの生き物を研究したがっていた山根にとっては、もう一度現れてくれという願いだったのかもしれない。その願いは東宝に聞き入れられるのだが。いずれにせよ、まったくこの父娘にはこまったものだ。

 こんな風に「まっこと女は恐ろしい」としか読み取れなくなってしまう話になってしまったのだが、 本作の脚本陣はよほど女性関係で辛苦を舐めた人がいるらしい。そうとうやられているのだろうね。

 

 と、妄想系でエントリーを挙げてみた。実は全くのオリジナルという訳ではなく倉田わたるのミクロコスモス(ttp://www.rinc.or.jp/~kurata/)というHPの 「ゴジラ」の秘密(ttp://www.rinc.or.jp/~kurata/godzilla.html)を読んで、目からウロコだったから。いちいち頷ける内容に舌を巻いたのだが、インスパイヤとして書いてみた。出来ればTBしたいぐらいだ。 興味のある方はご一読を。ただし倉田氏のページも濃いので、夢を持ちつづけていたい人には用心が必要かと。

 

posted by 森と海 at 00:11 | Comment(6) | TrackBack(0) | Movie(邦)
この記事へのコメント
芹沢博士の火傷は先日DVDを手に入れた時に(東宝版が半額とりあえずこれより下がるのをまってると手に入るかどうか怪しいので即決買いしたもの)もしかして原爆のケロイドとひっかけているのか?と恐ろしい事を思ったんだけれどそうじゃなく単なる酷い火傷を負ったために婚約をご破算にしたのかという認識。けっこうメロドラマの要素というかその辺の流れもあったのはなんとなく納得。
Posted by tonbori at 2006年03月09日 01:55
秘密にするという約束もなんのその、大義名分を振りかざし芹沢博士にオキシジェン・デストロイヤーの使用を迫る尾方と恵美子。芹沢博士から見ると、二人は元カノとその新しい男。可哀想な芹沢博士・・・。関係ないけど芹沢博士のフルネームは芹沢太郎だった記憶があります。太郎という名前が似合いません。(笑)
「ゴジラ」はサイドストーリーがしっかりしてますよねぇ〜。舞台劇(ゴジラに関してはテレビの映像やラジオの音声のみ)に移し替えてもいけるのではないでしょうか?
Posted by samurai-kyousuke at 2006年03月09日 15:17
>tonboriサマ
おお、3000エンで入手とは!貴重な出会いでございますな。いや、ボクも「せっかく長崎から逃げ延びた云々」の電車の女性もいたことですし、チラリとそんなことは頭をかすめました。しかしそれ書くと「遊星より愛を込めて」になりそな悪寒がイタシマシテ。

>samurai-kyousukeサマ
サイドというより、この三人模様がメインのような気がいたします。〈 サイン 〉形式にしてアレンジを施せば、一幕劇でも行けそうなくらいです。
Posted by 森と海 at 2006年03月10日 23:25
日本映画データベース(http://www.jmdb.ne.jp/)と
JTNEWS(http://www.lares.dti.ne.jp/~jtnews/)で
確認した。芹沢博士の本名は芹沢大助。以上。
Posted by 森と海 at 2006年05月30日 23:14
大助だったかぁ・・・。(°△°;)
Posted by samurai-kyousuke at 2006年05月31日 23:37
>kyousukeサマ
アク解見たら、”芹沢博士 フルネーム”っていう検索があったのでこっそり答えてみました。元が与太なんで全然OKです。お気になさらずに。
Posted by 森と海 at 2006年06月01日 00:24
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