2005年06月29日

**クリント・イーストウッドその深き・・・**

 ようやく、〈ミリオンダラー・ベイビー〉のファーストランが終わった。 そろそろネガティブな意見のエントリーをあげったっていいだろうと踏み切る。誤解の無いようにいっときますが、面白かったんですよ、 〈ミリオン〉は。ただ、いろんなところで言われているように傑作とまでは思わない。佳作・良作ぐらいか。今はそういう作品自体が少ないので、 それはそれでスゴイことなんですが。

 恐れながら尋ねますが、〈ミリオン〉のマギーのあの事故、決定的な怪我を負ってしまうところなんですけど・・・、 吹き出しそうにならなかった?
 ゴングの後に不意を突かれてフックを喰らい、倒れ込む場所にはすでにセコンドが椅子を上げていて、 その椅子の座面に頚椎から倒れていくという無音のスロー&ストップモーション。
 さすがにボクはぐっと堪えたが、静かになっていた館内に洩れた声を聞き逃しはしなかった。

 「ハア?」

 ボクも言いそうになったんだ。聞き間違えるわけがない。
 なにしろ、違和感バリバリだった。いまどき、あんな場面で、スロー&ストップモーションなんて、香港映画のそれもベタなやつしかやらない。 〈少林サッカー〉のバナナ滑りでは見事にやっていたが、あれはコメディだ。イーストウッド監督って、どんなセンスしてるの?

 

 イーストウッドの映画は分かりやすい。
 視覚で捉えた事柄は、台詞で必ず確認させてくれる。例えば、「モーガン・フリーマン扮するスクラップの片方の瞳の色がおかしいなあ」 と思ってみていると、すぐに失明していることが説明される。この例は、重要な事柄であるから、何度も繰り返し台詞中に出てくるが、 ほかでも一緒だ。説明多可なぐらいだ。
 このため、物語をピリピリしながら確認してゆく必要も無い。熟練の俳優たちの演技を楽しむという姿勢で望むことになる。 展開もまったりとしているのでね。一言二言台詞を逃したって大勢に影響は無い。

 その割に、最近のサスペンス物の常道である、残り30分で物語を一変させるという流行の技を躊躇なく実行もしている。 通常はこれをやると、ついて来れなくなる人たちもいるが、〈ミリオン〉では誰もが理解できるようにして。

 彼のマーチャンダイジングは、ティーンから老人まで過不足無く理解させ楽しませることなのだ。
 対象が広範囲にわたる。こう考えると、前述のストップモーションの意味も変わってくる。あれは、 ここから物語が大きく変化しますよというフラッグなのだ。師弟愛で来てましたけど、ここからは尊厳死がテーマです、 お間違え無くといっている。

 それが悪いこととは言わない。現に面白かったから。しかし、ロックな人ならわかるだろう「売れ線ロック」という言葉の冷ややかさを。 彼は、このテーマが売れることを予測し、誰にでも理解出来るように整え、オスカーを手にし、ヒットさせた。
 彼の勝ちである。
 〈ミスティックリバー〉は渾身の一振りではあったが、感情移入できない男による賛否両論と〈LOTR〉 という一種イベント的化け物によって、オスカーはかっさらわれてしまった。 感情移入できる善人が苦しむほうが大衆は喜ぶことを学習したのだろう。
 しかも、人の心に棘を残すテーマであるというオマケつきだ。何日も後を引けば、傑作かなと思いもするさ。それほど、 議論のしにくい重いテーマでもある。

 やはり、彼の勝ちなのだ。

 ただし、少しだけ気になることもある。
 これを機に、遡って監督作を何本か見返してみたが、どれも共通することがある。みな”負い目”を背負っている。その”負い目” を背負いつつしかし生きて行く権利はあるとした過去作に比べ、今作では権利の放棄が見てとれる。”極悪人でも家族と生きる”・” 心臓を貰った女性の姉と寝る”から、”間違って幼馴染を殺すが街のkingとして生きる。ただしそのことを知ってる者もいる”になり、” 原罪を背負って消息不明”というふうに、歳を追うごとに変化している。何かに対して懺悔しているのかもしれない。次回作の”イオージマ”で、 unforgivenな奴が明らかに死を迎えるとするならば、この説も正しいものとなるだろう。
 するとその後には、語るものが彼には残されていないような気もするが、アームストロングの自伝の権利を手に入れているようだし、 それはボクの思い過ごしだろう。

 ちなみに、アリソン・イーストウッドの母の名はマギーという。彼の最初のカミさんである。

 

 
posted by 森と海 at 00:06 | Comment(0) | TrackBack(0) | Movie(米)
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