2005年07月31日

**菩薩の顔と般若の顔**

 横目でチラリ見だけしていて、そのすべてを観ていなかった〈嗤う伊右衛門〉をレンタルする。

 なぜ、今頃?

 それは、そういう時期に差し掛かったからだ。

warau  世界のニナガワこと蜷川幸雄監督作である。

 一見すると、台詞ですべてを語り、その台詞回しに関しても時代がかった表現が多い。舞台っぽいと感じる人も多かろう。 蜷川さんだしそれは当然のことかと思う。

 「人の心の闇と、入り組んだ人間関係の隙間に”魑魅魍魎”が後付けで発生する。」

 四谷怪談を斬新な解釈で再構築した本作は、その人間関係は複雑だ。最後まで台詞の中でしか登場しない人物を含め、そのつながりは、 蜘蛛の巣のようでもある。しかしながら、細かく確認していけば、存作を読んでなくとも、充分理解できるように、小説に忠実に作られている。 いや、小説以上に丁寧な部分すらある。この画像の部分などは小説では省略している部分なのだが、小説にとっても映画にとっても、point of no returnな極めて大事な場面であり、映画のほうは時間軸にそって提供している。そういう意味で、” 蜷川さんが撮ったから舞台のよう”ではなく、まず小説ありきなのである。ただ、分かりやすくしようとする努力は感じられるが、 時間的制約は細かな描写まで立ち入ることは出来ず、その点は残念である。

 この怪談を新解釈で再構成した本作はなになのか?といえば、それはまさしく伊右衛門と岩の愛の物語である。ネタバレとなるが、 現世でお互いに慈愛し合いながらすれ違った2人は、彼の岸にてようやく一つになれる。まさにシェークスピア悲劇そのものである。 そりゃ蜷川さんも手がけたくなるよ。舞台における得意分野じゃないの。蜷川さんが撮らずして誰が撮るっていうの?撮るべき人が撮った、 当然のなりゆき。

 それにしても、小説より上手く台詞を抽出していて、じめっとした雰囲気を生かしたままだ。脚本は筒井ともみさん、 goodjobである。つーか、上手い。この映画、この小説に忠実かつ短縮した脚本がなかったら、どうにもこうにもならなかっただろう。

 先日「興味ねー!」とぶちまけた唐沢寿明だが、この黙して語らず掴み所ない伊右衛門役はボクとしてはピッタリである。 ただの糞真面目かと思いきやなかなかどうして用心深いという役どころを、所在なげに演じる。かたや、岩を演じる小雪であるが、 ちょっと上背ありすぎかとも思ったが、凛とした美しさは彼女以外には思いつかない。それに「伊右衛門殿が健やかなれば吾は幸せ」 という菩薩の顔と「伊右衛門殿なぜ健やかならぬ?うらめしや」という般若の顔の両方を持ち合わせていて瞬時に切り替えられるのは、 元々アルカイックな整った顔立ちでなければ無理だ。〈ラスト・サムライ〉に起用されたことからしても、意外や意外、 これからの時代劇には欠かせぬ顔となるかもしれない。菩薩と般若の顔っていったらつい鬼子母神を想像してしまうが、 久遠寺涼子もそうだったな。ニヤニヤ。これはここでは関係ない話。さて、極悪人伊藤喜兵衛は椎名桔平が演じる。 この腹の中に泥をふつふつと溜め込んだ悪党は、イメージとしては成田三樹夫さんがダブっていたのだが、 既に鬼籍の人なのでそれは願っても無駄ってものだ。サディズムの塊のような伊藤は、椎名桔平から感じられるが、 泥臭さはイマイチ感じられなかった。スマートだからなのかな?

 普通に映画だけ観てると、たぶんこの物語は面白くない。もしくは受け付けない。いや、存作の小説を読んでなくたっていい。 一冊だけでも京極作品のどれでもいいから読んでみて、肌に合うようなら面白いと感じるだろう。そんな小説と同じように物語の側が、 読む人を観る人を選んでしまう作品であるように思う。

 

 
 
posted by 森と海 at 23:47 | Comment(5) | TrackBack(0) | Movie(邦)
この記事へのコメント
唐沢は実はとっちゃん坊や顔も好きな私には、
常に範疇の男なんだけど(藁)、
役選ぶんだよね。これは当たりだったと思う。
そんで、小雪もよかったし、これまた実はわたくし蜷川のファンなんで不満はないけど(大藁)、話としてはなあ……京極読んだことがないからかな。
四谷ものなら、蜷川さんには旧作、「魔性の夏」があるし、あっちの方がよかったんだわ。やはり若い時のショーケンの力かしら(藁)。
Posted by acoyo at 2005年08月01日 19:40
こいつは未見なんだけどやはり京極作品の映像化を観るには原作は読んどいたほうがいいのかなあ。
いや実は「姑獲鳥の夏」を原田知世目当てで行こうと思ってるんだけど(笑)評判が・・・・・。
これについては読まずに行った方が吉のような気がするんだよね。
「嗤う伊右衛門」についてはコレと深作さんの「忠臣蔵外伝 四谷怪談」と対バンで観てみたい気がする。
Posted by tonbori at 2005年08月01日 23:48
>acoサマ
おっしゃる通り、唐沢くんは良い時と悪い時の差がありすぎる。悪い時はアチャー、ヤッチャッタってやつが多いような気がする。ショーケン's伊右衛門、鬼神でありました。
>tonbori堂サマ
ええー!tonbori堂サンて、京極ファンじゃないの?てっきり、京極堂から引っ張ってきたハンドルだと思ってた。「姑獲鳥の夏」は実相寺だから、実相寺だし、実相寺だもの。別物でしょう。映像界のベトコン。
Posted by forestsea(主) at 2005年08月02日 21:37
実はそうなのら(笑)
いちおーtonbori堂ってのはアナグラムになっとってまあ大阪のベタな地名から来てます。
で、実相時さんの作法を観るなら原作は後でもいいかなと思っていたり(苦笑)
Posted by tonbori at 2005年08月03日 01:28
たぶん後でいいよ、読むのは。
〈帝都物語〉を〈ウルトラQ ザ・ムービー〉を思い出すがよろし。カルト臭が酷かったもの。
Posted by forestsea(主) at 2005年08月03日 21:31
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