2005年08月15日

**霧島連峰は美しい**

 霧島連峰は本当に美しく、その優麗な佇まいは麓に生きる人々を丸ごと抱くようだ。

 今の時代でもそうなのだから、60年前にかの地で10代を送った黒木和雄監督には、どう見えたのだろうか? <美しい夏キリシマ>は、監督の自伝的作品であり、そして監督の強烈な反戦衝動を静かにフィルムに写しこんでいる。

 

KIRISHIMA1945-0

 物語は、監督の分身とも言える柄本祐扮する日高康夫の視線で描かれる。 大陸から親と分かれて連れ戻された康夫は、霧島連峰をいただく田舎に、厳格な祖父(原田芳雄)祖母(左時枝)の元で暮らしていた。学徒動員で飛行機工場で働いていた折、空襲で友人を失っている。 彼は、目の前で爆撃を受けて助けを請いながら死した友人を見殺しにしてしまったという罪悪感に苦しめられていた。 これは監督の実体験だという。康夫の周りには祖父母以外に、 康夫に親しみ深く接する奉公人のなつ(小田エリカ)、 兵隊と情を交わす戦争未亡人のなつ母(石田えり)祖父の進めで片足を失った帰還兵(寺島進) に嫁ぐ奉公人のはる(中島ひろこ)らがいた。

 皆が一様に、戦争で深い傷を負っていた。傷を負いながらも表面上は淡々と1945年の夏を迎えていた。

 監督は、前の戦争を太平洋戦争とは呼ばない。満州事変から日中戦争を経て太平洋戦争に至る15年を指して15年戦争と呼ぶ。 なるほど切り離しては考えられない。中国に侵略を開始して以来15年間、大日本帝国は、階段を転げるように落ちていっていたのだ。劇中にも、 日中戦争で前の夫を無くしたはるがいる。国としては侵略戦争を始めた加害者であるが、 その国民一人一人は戦争によって傷を負った被害者なのであった。

 戦争時の話とはいえ、激しい戦闘も激しい空襲も画面には現れない。画面に写り込むのは、霧島の山々と木々の緑だけである。 悲劇のヒーローもヒロインもそこにはいない。皆行き先に戸惑いながらも日々を淡々と送るのみである。画面からの照り返しは、 ここ30年の間に変わってしまった夏の暑さを感じさせる。今のむっとする暑さではなく、かっとした暑さを。2002年の作品なのに、 どうしてこう感じるのであろうか?ロケ地の力なのかもしれない。

 なんというか言葉を選べないが、1年に一度くらいは観てもいいだろう。

 忘れないために。

 語り継ぐために。

 でも、子供に見せちゃだめだよ。激しい石田えりにヒキツケ起こしそうだから。



   
posted by 森と海 at 23:18 | Comment(6) | TrackBack(1) | Movie(邦)
この記事へのコメント
ちょろこく安い、「反戦」気分の映画が横行する世の中で、私が安心してヒトに薦められるのは、この人の「Tomorrow」とこれだけです。
>今のむっとする暑さではなく、かっとした暑さを。
あ、それ、最近、ずっと思ってたんだよなあ。昔の映画の夏の方が遥かに夏だなあと。今の夏はむっとするというより、単にイライラする季節という気がするの。温暖化のせいか輻射熱のせいか。
Posted by acoyo at 2005年08月16日 13:28
ボクね、ちょっと前まではこのタイプのものは途中で飽きちゃってダメだったんだけど、最近は観れるんだわ。しかも面白く感じるという。重ねすぎたのか、〇〇を。
Posted by forestsea(主) at 2005年08月17日 21:29
何故だかこの映画はその時の空気をかがせてくれそうな気がした。
いやそんだけだけどコレって結構重要な気がする。
Posted by tonbori at 2005年08月17日 23:26
>その時の空気をかがせてくれそうな気がした。
その時を知らない自分らでも、擬似体験させてくれるものはほんに貴重です。パールハバ辺りと比べちゃイカンね。
Posted by forestsea(主) at 2005年08月19日 00:01
トラックバック、ありがとうございました。
これは多くの人に見てもらいたい映画なんですよ。いい映画です。
『パールハーバー』って私の中では『1941』ほど面白くないコメディといった位置づけなんですが(^^;。
Posted by サンタパパ at 2005年09月11日 06:18
『パールハーバー』は観てませんよ。たぶんこれからも。ダメ戦争映画の代表としてあえて使わさせて頂きました。
Posted by forestsea(主) at 2005年09月12日 22:09
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美しい夏キリシマ
Excerpt: 九州の南東部に位置する霧島は高い山が連なり風光明媚で有名なところです。その名前の由来については、日本神話の中で伊弉諾尊と伊弉冉尊が天の浮橋から天の逆鉾で霧の海を探ってこの地を見つけたので霧島と名付..
Weblog: かたすみの映画小屋
Tracked: 2005-09-05 00:28
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